No.1
博麗霊夢の機嫌は確かに先ほどまで良かったのだ。
だが今は苦虫を噛み潰し、そして箪笥の角に小指をぶつけたような表情で目の前の惨状を見つめている。
理由としては一つ挙げられる。
『霊夢ー、遊びに来たぜ、お茶くれよー』
目の前の白黒魔法使い、霧雨魔理沙によって先ほどまで行い、そして終えた掃除の成果が撒き散らされ振り出しに戻ってしまったということだ。
『あんたねぇ…』
『いやいや、悪かったって…な?』
『人が折角終わらせた掃除をパァにするなんていい度胸ねぇ…』
『すまん霊夢…私が悪かった…だからその箒で私をつつくのをやめてくれ頼むから』
いつもと変わらない普通の日常。
季節は春の半ば頃だろうか。
桜の花にも少しずつ青い葉が混じって来ている。
もう少しすれば季節は夏へと変わるだろう。
『終わったぜ霊夢』
魔理沙が掃除を終え、戻ってくる。
『次は無いわよ』
『本当に悪かったって…』
『そういや、最近は異変も無いし、仕事も無いなら食費も無いだろう』
魔理沙が笑って冗談を飛ばす。
『もう底を突いたわ』
突然の告白である。
一呼吸置き、何時もより少し真面目な表情で魔理沙は一つの話題をだした。
『だけどな、霊夢…最近の里の噂、知っているか?』
『知らないわね』
『まだ決まったわけでは無いだろうが、私は異変の前触れなんじゃ無いかと思ってるんだ』
真面目な表情のまま、霊夢へその返答を待つ。
『…まぁ聞いてあげるわ、話して見なさいな』
『分かった、話そう。まぁ…お前なら鼻で笑うかもしれないが…』
そして魔理沙は噂についての詳細を話し始めた。
今はまだ、気づかないであろう。
この小さな小さな、異変の前触れ…
そして、
一人の青年と会う事に。
『…実はな、これは香霖に聞いた話なんだが…』
『見たことも無いような妖怪が居たらしいんだ』